東京都で保育料の無償化が開始 手放しで喜ぶには課題も
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2026年9月、東京都でついに「第一子の保育料無償化」が始まりました。待ち望まれてきた制度のスタートに、多くの子育て世帯が歓喜する一方で、「心から喜べない」と感じる人も少なくありません。子どもを育ててきた世代の一人、49歳の女性Aさんもそのひとりです。
「うらやましいとは思うけれど、なんだか複雑な気持ちです」
Aさんは夫とともに働く共働き世帯で、大学生と高校生の2人の子どもがいます。世帯年収は約1,000万円。彼女が子どもを育てていた頃は、「待機児童」という言葉が社会問題になっており、出産直後から保育園探しに奔走するのが当たり前でした。
入園申込書には、通える範囲の保育園名を片っ端から書き込み、ようやく決まった園は自宅とは反対方向。雨の日は子どもを抱えて濡れながら送迎した日々もありました。もちろん、当時は無償化制度など存在せず、2人の子どもの保育料だけで総額500万円以上を支払いました。
「そのお金は今なら払わなくてよかったってこと? なんだか報われない気持ちです」
そんなAさんの言葉には、単なる羨望だけではない“時代のギャップ”がにじみます。
今回の東京都の「第一子保育料無償化」は、所得や子どもの年齢に関係なく、認可保育所などを利用するすべての家庭を対象としています。すでに2023年から始まっていた「第2子以降の保育料無償化」をさらに拡大し、2026年9月からは“すべての子ども”が対象になりました。
これにより、どんな世帯でも保育料負担が一律になり、「誰もが安心して子育てできる社会」へと一歩前進したともいえます。
しかし、Aさんはこうも語ります。 「今の若い世代も、別の意味で大変だと思うんです」
確かに、現在の生活コストはAさんが子育てしていた頃よりも大幅に上昇しています。総務省のデータによると、2026年の消費者物価指数(総合)は112.1。2010年の94.6と比べて20%近く上がっています。食品、光熱費、教育関連費……どれも軒並み値上がり。
さらに、首都圏の新築マンションの平均価格は、2010年の約4,700万円から2026年には1億円を超えました。もはや「同じ生活レベルを維持する」こと自体が難しくなっています。
つまり、保育料が無償化されても、浮いた分がそのまま“ゆとり”になるとは限りません。住宅ローン、教育費、日常の物価高騰が、その余裕をすぐに吸い取ってしまうのが現実です。
とはいえ、この制度がまったく意味をなさないわけではありません。月5万円の保育料がゼロになれば、経済的にも心理的にも負担が軽くなり、「もう一人子どもを持とう」と思う家庭が増える可能性はあります。少子化対策としても一定の効果が期待できます。
そして何より、「子育ては家庭の責任」という考えから、「社会全体で支える」という方向へ、社会の意識が変わりつつあることが重要です。
ただ、子育てに関する悩みは保育料だけでは解決できません。住宅費や教育費、働き方、地域の支援環境など、世代によって“壁”の形は異なります。
Aさんがつぶやいた言葉が印象的です。 「私たちの時代は制度がなくて苦労した。でも今の人たちは物価高で苦労している。結局、形は違っても大変なのは同じなのかもしれない」
保育料の無償化は確かに前進です。けれど、それが「すべてを解決する魔法」ではないこともまた事実。制度の恩恵をどう活かし、どんな社会を目指すのか――その答えを探すのは、私たち一人ひとりなのです。
